コミックナタリー PowerPush - 「映画ドラえもん」35周年

とよ田みのる&石黒正数が語る「私とドラえもん」

「映画ドラえもん」が3月7日に公開される「のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)」で35周年を迎える。コミックナタリーではこれを記念し、「ドラえもん」ファンのマンガ家にインタビューを敢行。「映画ドラえもん」シリーズで好きな作品や、自身が受けた影響などを語ってもらった。

第1回目には「ラブロマ」「タケヲちゃん物怪録」などで知られるとよ田みのる、第2回には「それでも町は廻っている」の石黒正数が登場する。

取材/大山卓也(P1~2)、臼杵成晃(P3~4) 文/坂本恵

とよ田みのるインタビュー

細かくリアルに設定された世界を舞台に、非日常に大冒険する

──今年で「映画ドラえもん」が35周年ということで、とよ田先生から見た「ドラえもん」の魅力を語っていただければと思っています。まずは、一番好きな作品からお伺いできますか?

ワープ航法のシーンについて語るとよ田みのる。

一番好きなのは「のび太の宇宙開拓史」なんですよ。SF的なギミックがいろいろあるんですよね。例えばワープ航法とか。のび太が「AからBの星へ、なるべく早く行くにはどうしたらいい?」って聞かれて、AからBへ直線を引くんだけど、ロップルくんが「こう繋げるんだよ」って紙を折るんですよね。ドラマとか映画でワープが出てくると、絶対このシーンを思い出してましたよ。

──わかります。

反重力を使った技術が盛んだったりね。コーヤコーヤ星は重力が小さいから、のび太でもスーパーマンになれたり。そういうSF的要素が細かくて、当時すごくわくわくしたのを覚えてますね。元々SFが好きなので。

──この世界だとのび太もスーパーマンになれるっていうのは、子供心に衝撃でしたね。

そうなんですよ。あと「宇宙開拓史」で一番好きなところは、のび太の射撃の腕が活きているところなんですよね。ギラーミンっていう殺し屋の刺客とのび太が最後に1対1の決闘をするんですけど、「腕利きのガンマンと聞いた」とか言われちゃって。あののび太が、本物のヒーローになる。「映画ドラえもん」の一番いいところっていうのは、冒険できるところだと思うんです。普段のドラえもんって、現実に異分子が1人紛れ込んでいるようなキャラクターなんですよね。例えばスモールライトで小さくなったら「水たまりが湖みたいだ」とか、そういう視点を変えることで現実が新しい楽しみを帯びた世界になる、というのが普段の「ドラえもん」。でも映画版っていうのは、本当の冒険をやるんです。いままで“ごっこ遊び”の延長だったものが、本当の冒険になる。

──ええ。

例えば1作目は過去に行って、2作目は宇宙に行って、3作目はジャングルの奥地へ行って、4作目は海底に行って、5作目は魔界に行って。それぞれ細かくリアルに設定された世界を舞台に、非日常に大冒険する。

日常の下地があってこそ、冒険が楽しい

──ドラえもんの道具があると大抵のことはなんとかなってしまうから、本当の危機感や冒険感を出すために、結構毎回工夫されてますよね。

ポケット掃除してたとか、どこでもドアが燃やされちゃったとか(笑)。1作目では、タイムマシンが壊れちゃった、とか。そういう縛りも面白いですね。

──タケコプターの電池切れとかも、すごくリアリティがあります。

「映画ドラえもん のび太の宇宙開拓史」のポスタービジュアル。©藤子プロ・小学館・テレビ朝日 1981

「電池が持たないよ」って言ってたら、スネ夫が「電池って休ませながら使うと長持ちするじゃない」って言って、ところどころで止まりながら、歩けるところは歩いて節約したりするんですよね。リアリティあります。やっぱりマンガや物語に一番大事なものって、もしこういう世界だったらどういう生活になるだろうって想像する力、「if」を妄想する力だと思うんです。それがもう藤子先生はズバ抜けてすごいんでしょうね。この世界に、まるで自分がいるかのように描いてる。

──それに普段、ドラえもんやのび太とともに読者も日常を体験してるから、一緒に冒険しているような気持ちになる。

日常の下地があってこそなんでしょうね。あの日常に住んでいる僕たちの友達が、ジャングルや海底に冒険しに行ってるっていうところが楽しいんだと思います。

──あとおなじみのキャラクターの、ちょっと違う一面が見えるとか。

最たるものはジャイアンがカッコよくなったりですよね。スネ夫も「怖いなあ、嫌だなあ」って言いながらもしぶしぶ一緒に来てくれるとか。普段はメインキャラだけで回してるけど、大長編はゲストキャラクターとの濃密なコミュニケーションも面白いところですし。

──「宇宙開拓史」は特にそうですね。

「宇宙開拓史」はのび太とドラえもん以外の、ジャイアン、スネ夫、しずかちゃんがあんまり絡んでないんですよ。最後のクライマックスで助けにきてくれるけど、それまで3人は出てこない。でもその分、ロップルくんとドラえもん、のび太の関係がちゃんと描かれていて、別れのシーンなんて切なくてたまらないですね。ほかの大長編に比べたらちょっとバランスが悪いのかもしれないけど、逆に僕はそこがすごく好きでした。

初めて見に行った映画が「ドラえもん」

──「宇宙開拓史」以外にも、印象的な作品はありますか。

「映画ドラえもん のび太の恐竜」ポスタービジュアル。©藤子プロ・小学館・テレビ朝日 1980

衝撃を受けたのはやっぱり「のび太の恐竜」ですね。僕が子供のころって大長編のコミックスはまだ出てなくて。10巻の終わりに「のび太の恐竜」の元になったエピソードが載ってるじゃないですか。当時兄貴が、それの続きがコロコロに載ってるって教えてくれたんです。僕は「そんなことあるわけない」って思って(笑)。あれで綺麗に終わってたじゃないかって。あまりにもショックを受けて、それから熱心なコロコロの読者になりました。大長編の部分だけ切り取って、それを貼りあわせて本を作ってたんです。

──自作のコミックスを。

Fライフ(小学館)の打ち上げで吉崎観音さんとモリタイシくんと高橋聖一くんの4人で飲んでたんですけど、そのときにもみんな「僕もやってた!」って盛り上がって。これ、みんなやってたんですね(笑)。

──ちなみにとよ田先生って、今おいくつですか?

「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争」ポスタービジュアル。©藤子プロ・小学館・テレビ朝日 1985

僕は43歳なので、「ドラえもん」のアニメが始まったときが小学校1、2年生くらいだったかな。だから劇場版は2、3年生くらいかな? 初めて見に行った映画が「ドラえもん」でした。覚えてるのは、「のび太の宇宙小戦争」が1985年だから、僕もう中学生で。学生服着て見に行くのが恥ずかしいって気持ちがちょっとあったんですけど、友達を誘って見に行きましたね。最近の映画はなかなか見れていないですけど、子どもが生まれたので、その子が大きくなったらまた見始めるんでしょうね。それで子どもたちもまた「ドラえもん」が大好きになる。揺るがないですよね。

Contents Index

とよ田みのるインタビュー
石黒正数インタビュー
「映画ドラえもん」全35作品を一挙配信
映画ドラえもん×ビデオパス 「映画ドラえもん」全35作品を「ビデオパス」で独占配信中!
「映画ドラえもん のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)」2015年3月7日(土)全国ロードショー
「映画ドラえもん のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)」

ある日、テレビのヒーローに憧れたのび太は、みんなでヒーロー映画を作ろうと言い出す。ドラえもんは、ひみつ道具〈バーガー監督〉を出して、のび太たちが「銀河防衛隊」というヒーローになって宇宙の平和を守るという映画を撮影し始めた。ところがその時、地球に不時着していたポックル星人のアロンに、本物のヒーローと間違われて一緒に宇宙へ行くことになってしまう……。ポックル星は一見楽しそうな星に見えたが、実は宇宙海賊のある恐ろしい計画が進行していた。このままではポックル星が滅んでしまう。ドラえもんたち「銀河防衛隊」は、本物のヒーローになって、ポックル星を救うことができるのか!?

とよ田みのる(トヨダミノル)
とよ田みのる

1971年10月7日東京都大島生まれ。本名は豊田実(読み同じ)。2000年「レオニズ」で月刊アフタヌーン(講談社)の四季賞(夏)にて佳作を受賞。2002年に高校生同士の恋愛を描いた「ラブロマ」を同賞に投稿、四季大賞を受賞しデビューする。翌年、同作は連載化。そのほかの代表作に「FLIP-FLAP」「友達100人できるかな」「タケヲちゃん物怪録」など。3月6日に誕生した新たな青年マンガ誌・ヒバナ(小学館)にて子育てエッセイ「最近の赤さん」を連載開始する。そのほか新連載も鋭意準備中。


2015年3月13日更新