コミックナタリー PowerPush - 「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章 ~紋章を継ぐ者達へ~」

藤原カムイがヤングガンガンでの10年を語る

2004年に創刊されたスクウェア・エニックスの青年誌・ヤングガンガンが、本日12月5日に発売されたNo.24で10周年を迎えた。これを記念しコミックナタリーでは、創刊時より「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章 ~紋章を継ぐ者達へ~」を連載している藤原カムイにインタビューを敢行。「ロトの紋章」連載の経緯から、ヤングガンガンで執筆してきた10年間をたっぷりと語ってもらった。

またヤングガンガンでは、浅野いにおら豪華ゲストによる読み切りを続々と掲載。特集後半ではそのラインナップを、担当編集者によるおすすめコメントとともに紹介する。

取材・文/さやわか

藤原カムイインタビュー

藤原カムイが「ロトの紋章」を描いた理由

──そもそも、藤原さんが月刊少年ガンガン(スクウェア・エニックス)で「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」を連載することになったのは、どういう経緯だったのでしょうか?

「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章 ~紋章を継ぐ者達へ~」1巻

ガンガンの創刊時に、何か執筆してほしいという依頼があったんです。それで、ラフなドラクエのコンテを持って行ったんですが「ドラクエのマンガは、もう連載が決まっちゃってるんで、他の作品で」と言われてしまった。ところがその後になって、その作家さんは描かれないことになったんです。しかも僕が以前に描いた「チョコレートパニック」という作品を堀井雄二さんが読んでくださっていて「彼ならよいのでは」という話もしてくれたそうで。もしかするとその鶴の一声で決まったのかもしれないですね。

──藤原さんはいろんな作品を描かれていますが、当時は「H2O」や「茶目子」のようにSFや実験作のイメージもありました。この時期に「雷火」や「ロトの紋章」などアクション風の作品を相次いで描こうとしたのはなぜだったんでしょうか。こういうものに挑戦してみようという気持ちだったのですか?

そもそも「雷火」では、少年マンガというのをちょっとやってみたいなと思ってたんです。でも掲載誌が青年誌だったんで、そこまで少年マンガらしくはできなかったんですね。そのリベンジとして、ガンガンで王道の少年マンガをやろうという気持ちでした。パロディとかはやったことがあるけど、そういうのではなく、ガチで少年マンガをやったらどうなるかっていうところは挑戦でしたね。

──そこで、とりわけドラゴンクエストというゲーム作品のコミカライズをやるということに対しては、どう捉えていましたか?

藤原カムイ

もともとゲームの世界をコミカライズしたいなというのは、前々から思ってたんですよ。だから最初の打ち合わせで持っていったラフも、「ドラクエI」の世界観で、勇者が剣でスライムを叩くみたいなシーンでした。ミニコミを想定していたので、いかにも鳥山先生が描いたような絵でマンガにできたら、面白いんじゃないかなぐらいの発想でしたね。連載が始まると決まってからは、DQの世界のビジュアルの要である鳥山先生のイメージを守りつつ、自分のオリジナリティをいかに引き出すか、が問題でした。

──もともと、ドラゴンクエストというゲーム作品に特別な魅力を感じていたんですか?

想像の余地がたくさんあるのがよかったんですよ。当時はファミコンのスペック上の問題でグラフィックを抑えてる部分もあったはずなんですけど、逆に「これをマンガにしたらどうなるんだろう」と想像力をかき立てられた。スペックの向上によって、あらゆる表現が可能になった現在は、逆に想像の余地がない。全部を見せられちゃうと、もうコミカライズの必要も感じなくなってくるんですよね。あとはファンタジーというジャンル自体も当時はまだあまり広がっていなかったので、そこで何か挑戦できればなと思ったんです。

デジタルで蘇った「完全版」

──ロト3部作の世界観でオリジナルストーリーをやるというのも、かなり初期から決まっていたんですか?

最初の原作者の方がそういうふうに設定したからそうなったという感じなんですね。その流れで、今でも同じ世界観で続けているところはあります。

──原作や脚本の方と組んでの制作作業は、どういう形で行われるのですか?

基本的には脚本の方にシナリオを送ってもらって、それをマンガにしていく形式です。ただ何回か脚本の方が変わったりしているので、いろいろ変わってはいますけど。「ロトの紋章」のときは編集者と脚本家の間でストーリーを絞り込んで、それから脚本が届くというスタイルでした。脚本家が変わってからは、自分も交えて編集者と3人で、ああでもないこうでもないってディスカッションして作りました。最近になってからはまたちょっと変わってきてて、脚本が届いたら打ち合わせをして、その答えをまた脚本家に戻して直してもらう、みたいなスタイルを取ってますね。

──前作の「ロトの紋章」最終回のあたりは、かなり藤原さんの考えがストーリーに反映されているそうですが、具体的にはどんなこだわりがあったのでしょうか。

ラスボスである異魔神の、本当の目的は何だったのかというところですね。シナリオの段階では、異魔神のルビスに対する個人的復讐が理由だったんですけど、それだと主人公たちはなぜ戦いに巻き込まれたのかよくわからなくなってしまう。だから変えたほうがいいと思ったんです。

──「ロトの紋章」完全版の単行本は、デジタル作画を使った大幅な加筆も見どころです。もともと、デジタル環境に移行していったのはいつごろなんですか?

「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」完全版1巻 ©1991-1997,2006 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

「ロトの紋章」の後半、異魔神が復活する直前ぐらいからですかね。当時はマシンスペックがまだよくなかったので、カバーの一部に手を加えたり、立体魔法陣を描く際にちょっと使ったりしてました。3Dソフトとかは使ってないんで、なんちゃってでしたけど。その後、だんだんスペックがよくなって、かなり要求に応えられるようになってきましたね。あと、やっぱり一番大きいのは原稿の紛失とかがありましたからね(笑)。それでデジタルで入稿しようっていう気持ちになりました。完全版では、紛失した原稿については本に印刷された状態から写植文字をすべて消していく作業をやりましたよ。

──完全版では、動きのエフェクトをデジタルで新たに入れたり、カラーの塗りも変えられてましたよね。

まあ、それもありますけどもね。でも、なるべく手塗り感は残そうと思っていました。完全版のカバー絵とかはテクスチャーを乗せて、いかにも手描きのように仕上がってますけどね。

──手描きの質感には特にこだわりがあるんですか?

そうですね。デジタルで一番難しいのは、たとえば女性の肌色とかなんです。だからいったん手描きで塗っちゃった段階でスキャンして、他の部分をデジタルでやったりしてます。それにデジタルって、ぼかしとかはなかなか難しいんですよ。だからいったん水彩のテクスチャーを作って、それを絵にはめ込むみたいな形になるんですよね。

ヤングガンガンNo.24 / 12月5日発売 / 330円 / スクウェア・エニックス
ヤングガンガンNo.24
創刊10周年記念号!
  • 藤原カムイ描き下ろし創刊10周年ピンナップ付き
  • 原作:七月鏡一 作画:梟「牙の旅商人 ~The Arms Peddler~」連載再開
  • 原田雅史の集中掲載「トゥー・マッチ・ペイン」スタート
作画:藤原カムイ 脚本:梅村崇 監修:堀井雄二「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章~紋章を継ぐ者達へ~」20巻 / 12月25日発売 / 576円 / スクウェア・エニックス
「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章~紋章を継ぐ者達へ~」20巻

新時代の賢王、覚醒!

蜃気楼の塔へとやってきたポロン、レーベン、ベゼル達。塔の中で異空間の迷宮へと迷い込んだレーベンとベゼルは、賢王となるための試練を課せられることになる。はたして、無事新たなる賢王が誕生し、この迷宮から抜け出せるのか!? その時、ジパングには神器を狙うハロルドの魔の手が迫っていた。イサリは、自らの使命を帯びて、人ならざる者へと変貌しつつあるハロルドと対峙するが!? 導かれし者達の物語、第20幕。

藤原カムイ(フジワラカムイ)
藤原カムイ

1959年生まれ。1981年マンガ宝島(宝島社)にて「バベルの楽園」でデビュー。以降読み切りを中心に活動し、1987年に月刊コミックバーガー(スコラ)にて原作に寺島優を迎え「雷火」を連載。邪馬台国を揺るがす陰謀に立ち向かう青年を描き人気を博す。1991年には月刊少年ガンガン(スクウェア・エニックス)にて原作に川又千秋を擁し「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」をスタート。TVゲームであるドラゴンクエストの設定を活かしヒット作に。同作は1996年に映画化され、2004年からはヤングガンガン(スクウェア・エニックス)で続編「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章~紋章を継ぐ者達へ~」を連載中。