音楽ナタリー PowerPush - Last Note.

想定外な広がりを見せる「ミカグラ」の世界

Last Note.がニューアルバム「ミカグラ学園組曲」を2月25日にリリースする。

今作には、ニコニコ動画で120万再生を記録している「放課後ストライド」や、この曲と共通の世界を描いた「有頂天ビバーチェ」「無気力クーデター」など計11曲が収められる。「ミカグラ学園組曲」と題されたこれらのシリーズは、音楽のみならず小説やコミックスにも派生。4月からはテレビアニメの放送も決定するなど人気シリーズへと成長している。

アルバムのリリースに際し、ナタリーではメンバーのLast Note.とLast Note.Tにインタビューを実施。一大メディアミックス作品となった「ミカグラ学園組曲」生誕の裏話や、アルバムに収録される新曲の制作背景などをたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦

ここまで広がるとは思ってなかった

──「ミカグラ学園組曲」アニメ化、おめでとうございます。

Last Note.(以下、ラスノ) ありがとうございます。アニメ化って言われても実感がなかったんですけど、声優さんのオーディションだったり、アニメの監督さんとの打ち合わせなどを重ねていくにつれてホントにアニメになるんだって思ってきました。すごく楽しみです。

Last Note.T(以下、T) 僕も最初にアニメ化の話を聞いたときに、「え、ホントに?」って思って。ただただビックリしてます。

ラスノ ここまで広がるとは全然思ってなかったよね。

──そもそも「ミカグラ学園組曲」は、2012年12月にニコニコ動画で公開された「放課後ストライド」という作品から始まっています。この動画では登場キャラクター1人ひとりの紹介が入っていて、すでにメディアミックスを見据えてスタートしたものかと思っていました。

ラスノ どこまで広がるかってことはあんまり考えていなかったんですよ。ただ投稿者コメントに「おかしな放課後、始めました。」って書いたりして、「これから何か面白そうなことが始まるぞ」って思ってもらえるようには作っていました。もともと僕は物語の設定を考えるのが大好きで、何か新しいことをやろうと思い立ったとき、学園モノで、文化部しかなくて、そこで異能力バトルが行われて、いろんなキャラクターがいっぱいいて……って妄想していたらどんどん広がって、その結果ああいう1曲目になったんです。

T 最初にこの曲の話をラスノさんに聞いたとき「え? こんなにいろいろあるの?」って思いましたから(笑)。

──Tさんは「ミカグラ学園組曲」というシリーズの構想をどんなふうに知らされたんですか?

T 今回は学園モノで初音ミクとかGUMIとかVOCALOIDがメインじゃなくて、オリジナルキャラクターでやるんだっていう話を聞いて。実際は曲を作ってみてラスノが歌詞を書いた時点で、なんとなくどういうものかっていうのが見えてきた感じですね。

ラスノ 1人ひとりの設定は用意してましたけど、最初は今みたいにきちんと1人に1曲ずつ用意しようとまでは考えてなかったんです。でも動画の反響もあって曲を作ろうってなって、結果として今回のアルバムでメインキャラ全員分の曲が作れたのはとてもうれしいですね。

キャラが勝手に動くってこういうことか

──最初の動画公開から、わずか半年で小説「ミカグラ学園組曲1 放課後ストライド」が出版されています。著者がLast Note.になってますが、これはラスノさんがお書きになったんですか?

Last Note.「ミカグラ学園組曲」初回限定盤のジャケットイラスト。

ラスノ そうです。せっかくだからやってみようってことで、小説も自分で書くことにしました。

──もともと小説にしようとは考えていたんでしょうか?

ラスノ いや、実は全然考えてなくて。ただ「放課後ストライド」を公開したその日のうちに出版社さん3、4社から「小説をやらないか」って声をかけていただいて、それがきっかけですね。

──てっきり小説での展開も予定に入った上で「放課後ストライド」を公開したのかと思っていました。すでに5冊が刊行されていますが、実際書いてみてどうでしたか?

ラスノ 最初の1冊目のときは、わりとスラスラ書けたんです。素人でも勢いでやれるもんだなと思ったんですけど、2冊目からはけっこうキツくて……。楽しいは楽しいんですけど、プレッシャーもあって産みの苦しみが増していっていますね。

──小説にすることで「ミカグラ学園組曲」というシリーズに何か変化は生じましたか?

ラスノ もちろん自分の中でストーリーとか登場人物のことは把握してるんですけど、小説を書いているとキャラクターが勝手に動いてくれるところもあって。そこは歌詞にも反映されているというか、よりイキイキしたものになったと思ってます。

──作家の方がよく「キャラクターが勝手に動く」とおっしゃることがありますが、ラスノさんのように執筆前に細かく設定を決めていても、キャラクターは勝手に動くものなんですね。

ラスノ 動きますね(笑)。僕も最初はそんなことないと思ってたんですけど、書いているうちにやっぱり変わってくる部分があるんですよ。「キャラが動くってこういうことか!」って最初は自分でも驚きました。でも自分で作ったキャラクターの新たな一面を発見できたりするのは楽しいですね。

小説「ミカグラ学園組曲5 不条理ルーレット」書影。

T 小説もそうかもしれませんが、曲のほうもすごく変わるんです。音符の通りに歌詞がこないというか。

ラスノ 作詞をしてるとキャラクター性を優先したくなるんです。1曲に全部詰め込みたくなって、言葉数が多くなったりしちゃうんですよね。

T 僕らの作曲作業って、まず最初に曲を作って、次にラスノさんが歌詞を考えてくるんです。物語の大枠は聞いていますから彼が言いたいことっていうのもわかるんですけど、もともとの音符はこうだから歌詞はこうなると……というのを2人で話し合って。「ここは音符を増やそう」とか「ここはほかの言葉に変えよう」っていう擦り合わせを毎回していますね(笑)。

ニューアルバム「ミカグラ学園組曲」2015年2月25日発売 / Sony Music Records
初回限定盤[CD+DVD] 3500円 / SRCL-8741~3
通常盤 [CD] 2600円 / SRCL-8744
CD収録曲
  1. overture
  2. 我楽多イノセンス
  3. 有頂天ビバーチェ
  4. 絵空事スパイラル
  5. 花吹雪リフレクト
  6. 無気力クーデター
  7. 赤裸々キャンディ
  8. 十六夜シーイング
  9. 不条理ルーレット
  10. 革新的ヒロイズム
  11. 放課後ストライド
初回限定盤DVD収録内容
  1. 放課後ストライド
  2. 無気力クーデター
  3. 有頂天ビバーチェ
  4. 我楽多イノセンス
  5. 十六夜シーイング
Last Note.(ラストノート)

Last Note.とLast Note.Tの2人からなるボカロPユニット。ハードなギターサウンドによるストレートなロックチューンを得意とする。2010年に動画サイトへの初投稿作「ワンステップ・レイヤード」がVOCALOID殿堂入りを果たし、その後投稿された「セツナトリップ」などの楽曲も絶大な支持を受けた。2012年末にニコニコ動画で発表した動画「放課後ストライド」を皮切りに、同じ世界を描いたシリーズ「ミカグラ学園組曲」を始動。2013年7月には小説「ミカグラ学園組曲1 放課後ストライド」が、同年11月にはコミック「ミカグラ学園組曲1」が発刊され、メディアミックス作品として人気を博していく。2015年2月にはこれまで発表した関連楽曲と新曲を収録したアルバム「ミカグラ学園組曲」をリリース。同年4月にはアニメ「ミカグラ学園組曲」のオンエアがスタートする。