ナタリー PowerPush - VALSHE

物語の続きを聞かせて

7thシングル「TRANSFORM / marvelous road」からわずか2カ月、VALSHEから早くも新しい作品が届けられた。今回リリースされるのは、VALSHEが生み出したオリジナルの物語をもとにした8thシングル「TRIP×TRICK」、そしてメジャーデビュー作「storyteller」(2010年発売)の続編として制作された「storyteller II ~the Age Limits~」。楽曲、歌詞、サウンドメイク、映像などを含めた総合芸術として楽しめる2作には、クリエイターとしての彼女のセンスとスキルが色濃く反映されているようだ。

取材・文 / 森朋之

デモ音源を聴いて物語が思い浮かんだ

──まずは8thシングル「TRIP×TRICK」のことから聞かせてください。“オリジナルの物語をもとにした楽曲”という構想はどんなふうに生まれたんでしょうか?

最初からこういう(物語をもとにした)楽曲にしようと思っていたわけではないんですよ。このシングルに取りかかったのは前作「TRANSFORM / marvelous road」の制作が終わってからなんですが、いつも通り、デモを聴き込むところから始まったんです。普段はそこからコンセプトを考えて、歌詞を書き始めるんですが、今回はデモの音源を聴いたときに物語が思い浮かんだんですね。それがちょうどオフの日だったこともあって、その物語を書いてみようと思って。それが思った以上にボリューミーになったんですよ。

──ミュージカルのようなドラマチックな展開を持ったサウンドに触発されたのかもしれないですね。長い物語をその1日で書き上げたんですか?

いえ、結局3日かかりました。最初から起承転結を思いついていたわけではなくて、イメージの中から生まれた物語をつなげながら書き進めたんですよ。全体を書き上げ、細かく肉付けをしてから、サウンドプロデューサーのminatoに「この物語からインスパイアされた歌詞を書いてみたい」と話したら、とても興味を持ってくれて。2曲目「my name is...」はminatoが「物語のエンディングになるような楽曲」ということで作ったもので、そこもつながっています。ビデオクリップの監督さんにも物語を読んでもらっていますし、今までとは違った作り方になっていると思いますね。

想像して楽しめる部分を残しておきたい

VALSHE

──物語のプロットを教えてもらってもいいですか?

名前を奪われた少年が、自分の名前を取り戻すために小さな冒険に出かけるというお話です。その中でいろんな人と出会い、そこで得た知識を使って問題を解決しながら、最終的に名前を取り戻せるのかという。基本的にはVALSHEとは関係ないところで展開される物語ですね。

──でも、VALSHEさんの考え方、価値観みたいなものは反映されてますよね?

あ、そうですね。自分の心情だったり、「こういうことをされると、こう思うだろうな」ということはけっこう含まれていると思います。ただ、書き手としてのVALSHEは別の立ち位置にいるし、歌詞にする際にもできるだけ客観的に、第三者の立場から汲み取るようにしていました。

──クリエイターとしての視点と、それを俯瞰で見ながらコントロールするプロデューサー的なスタンスが共存しているんでしょうね。

作り手の視点だけになると、自分の場合はすごく説明的になってしまうんです。起承転結を事細かに説明したくなるんですが、そうすると“想像して楽しむ”ということを邪魔してしまうと感じていて。受け取る側が「これはどういうことだろう?」と想像できる部分を残しておきたいんですよね。

──どこまで説明して、どこを説明しないかという見極めも大事ですね。

そうなんですよね。自分も余白が残っている作品が好きだし。叙述トリックの小説などもよく読みます。

──なるほど。では、リスナーの楽しみを残しておくためにも、歌詞の説明はこのあたりにしておきましょうか(笑)。物語性が強い楽曲となると、ビデオクリップの作り方にも影響してきますよね。

ビデオクリップでは、VALSHE自身が「TRIP×TRICK」を読んでいる子供に扮しているんです。物語を読み、いろいろな想像を膨らませられるビデオクリップになっています。まるで自分が主人公の男の子と同じ冒険をしているつもりになって、部屋中にあるさまざまなものを使って想像を巡らせる。つまり、聴き手の方々とも重なる演出になってるんですよね。

──そして初回限定盤には、物語をVALSHEさん自身が朗読したボイスCDも付いています。

声優業の勉強をしていることもあるし、せっかくの機会なので、自分の朗読をCDにしようと。キャラクターに声を当てるときと違って、客観的に読み聞かせるということなので、できるだけ感情移入しないように意識していました。11章でだいたい1時間くらいなんですが、じっくり楽しんでいただけたらと思います。

ニューシングル「TRIP×TRICK」 / 2014年9月24日発売 / ビーイング
初回限定盤 [2CD+DVD] 2376円 / JBCZ-6009
通常盤 [CD] 1296円 / JBCZ-6010
CD収録曲
  1. TRIP×TRICK
  2. my name is...
  3. TRIP×TRICK -Instrumental-(※通常盤のみ収録)
  4. my name is... -Instrumental-(※通常盤のみ収録)
初回限定盤付属 特典CD
  • 朗読ヴォイスCD
初回限定盤付属 特典DVD
  • 「TRIP×TRICK」MV、MVメイキング映像
「VALSHE LIVE THE TRIP 2014 ~Lost my IDENTITY~」

2014年11月8日(土)千葉県 舞浜アンフィシアター

[1回目]OPEN 13:00 / START 14:00
[2回目]OPEN 17:00 / START 18:00

一般発売日:10月11日(土)
お問い合わせ:ディスクガレージ

VALSHE(バルシェ)

アニメファンやネットユーザーを中心に支持を集める女性シンガーで、中性的なハスキーボイスで歌われる力強いロックサウンドが魅力。2010年にミニアルバム「storyteller」でメジャーデビューして以来、精力的に作品をリリースしている。2013年11月、人気アニメ「名探偵コナン」のオープニングテーマに採用された「Butterfly Core」を6thシングルとして発売。このタイミングでアーティストビジュアルを従来のイラストから実写へ一新し、大きな反響を呼ぶ。リリース後には初のライブイベントをファンクラブ会員限定で開催し成功に収めた。2014年2月、2ndフルアルバム「V.D.」を発表。同年9月に「storyteller」の続編となるミニアルバム「storyteller II ~the Age Limits~」と、シングル「TRIP×TRICK」を同時リリースし、11月に約1年ぶりとなるライブ「VALSHE LIVE THE TRIP 2014 ~Lost my IDENTITY~」を開催する。