音楽ナタリー PowerPush - 吉澤嘉代子

少女時代の終わり

ミニアルバム「変身少女」で鮮烈なデビューを飾り、2ndミニアルバム「幻倶楽部」で表情豊かな物語を展開した吉澤嘉代子が、1stフルアルバム「箒星図鑑」を完成させた。魔女に憧れた少女時代を終え“大人”になったという彼女。インタビューでは吉澤が「箒星図鑑」に込めた思いをじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 佐藤類

私にとってのモラトリアムソング

──3枚のミニアルバムを経て、満を持しての1stフルアルバムですが、吉澤さん自身のこれまでの人生を総括するような作品になりましたね。まるで過去の自分を供養するような。

吉澤嘉代子

供養。確かに。「変身少女」(2014年5月発売のデビューミニアルバム)、「幻倶楽部」(2014年10月発売のメジャー2ndミニアルバム)、そして今回の「箒星図鑑」は、テーマとおおかたの選曲は想定していたんです。

──デビューの段階で、ここまでの作品の流れはある程度決めていたと。

はい。「ストッキング」は子供の頃“魔女修行”してたとき(参照:吉澤嘉代子「変身少女」インタビュー)と今の自分が交差するような、すごく大切な曲で。以前からライブではずっと歌ってたんですけど、作品としてどこで出したら一番この曲が報われるのかを考えたんです。

──報われるか。

何もないところでいきなりこの曲を出しても“自分さらけ出しソング”として埋もれてしまうなと思ったんです。ラブリーなポップスが詰まった作品、物語性の強い作品を出して自分の色をある程度見せた上でこの「ストッキング」を形にしたくて。そういう意味ではいい位置に置けたかなと思っています。

──曲を作ったときから「これは自分にとって大事な1曲になる」と考えていた?

そうですね。私にとってのモラトリアムソング。曲を書くときはいつも、子供の頃の自分に向けて書いている節があって。「ストッキング」を書いたのは20歳の頃で、デビューのきっかけになったコンテスト(2010年11月に開催されたヤマハ主催のコンテスト「“The 4th Music Revolution”JAPAN FINAL」。吉澤はこのコンテストでグランプリとオーディエンス賞をダブル受賞しデビューのきっかけをつかんだ)にはこの曲で出場したいと思っていたんですけど、それは結局「らりるれりん」にしたんです。ずっと一番いい形で出したいと思っていて、ようやく出すことができました。

あの頃の魔法を取り戻すために

──20歳の頃に作った「ストッキング」を今歌う上で、多少変化させたところもあったりします?

いえ、この曲はわりと作ったままですね。アレンジもほとんどデモのままで。でも、どこかで自分をだましてるというか……この曲からさらに成長している自分がいるので、2つの気持ちがあって。子供の頃の自分が報われてほしいという個人的な思いもあるんですけど、一方で客観的に「少女時代というものそのものに商品価値がある」という気持ちもありますね。

──その少女時代の情景をストッキングというアイテムを使って描写していることに面白さを感じました。なぜモチーフとしてストッキングを選んだんですか?

あくまでタイツじゃなくてストッキングなんですよね。肌色の薄い生地で。それって子供の頃は履かないもので、私にとっての大人のモチーフなんです。それと繭みたいなイメージですかね。

──そのストッキングを履かずに引き裂いたり、あやとりしたりして遊んでるんですよね。引き裂いたストッキングのイメージはそのままアルバムジャケットのスズランテープのイメージ、タイトルにある箒星のイメージにもつながるのかと思ったのですが。

そうですね。魔女修行していた子供の頃は、完全に魔女になれると思い込んでいたんですよね。でも大人になるとすごい人たちがたくさんいて……それこそ音楽の世界なんて化け物だらけで、自分に自信をなくしてしまうこともあって。そんなときに、あの頃の気持ちを取り戻せたら、という気持ちで書いたんです。子供の頃は誰かによって自分を変えてもらいたいという受動的な態度でしたけど、今だったら自分で未来の自分を迎えにいけるんだろうなって思うんです。

サウンドプロデューサー横山裕章&石崎光の色

──今作のサウンドプロデュースはインディーズ時代の作品から参加している横山裕章(agehasprings)さんと石崎光さんが曲ごとに担当していますが、どのような基準でプロデューサーを選んでるんでしょうか。曲を作っている段階で「これは横山さん、これは石崎さん」というイメージがある?

吉澤嘉代子

あったりなかったりですね。光さんは今の段階の吉澤嘉代子という看板を一緒に作ってくれた人だなと思っていて。

──ちょっとマニアックな要素を入れつつ、吉澤さんの持つ楽曲センスを際立たせている印象があります。

そうですね。仕掛けがいっぱいあったりとか。音楽はもっともっと自由にできるということを教えてくれた人なので、遊び心がある曲ができたときは光さんの顔が浮かびますね。

──一方で横山さんがプロデュースしている楽曲は、より広く大衆的に受け止めてもらえそうな楽曲が選ばれているような感じがして。

うんうん。なんだろう、ストンとカッコいいものというか。2人ともいくらでもマニアックにできると思うんですけど、工夫の仕方に個性があるので。1回、同じ曲を2人がそれぞれアレンジしたものを聴いてみたいですね(笑)。

──ああ、それは面白そうですね。同じ歌詞とメロディを2人がどう解釈するか。同じことを歌っているのに、まったく違う曲になるかもしれない。

実現は難しいかもしれないけど、聴いてみたいです(笑)。

1stフルアルバム「箒星図鑑」 / 2015年3月4日発売 / 3000円 / e-stretch RECORDS / CRCP-40399
1stフルアルバム「箒星図鑑」
収録曲
  1. ストッキング
  2. 逃飛行少女
  3. 未成年の主張
  4. ブルーベリーシガレット
  5. なかよしグルーヴ
  6. キルキルキルミ
  7. 美少女
  8. チョベリグ
  9. ケケケ
  10. シーラカンス通り
  11. 泣き虫ジュゴン
  12. 23歳
吉澤嘉代子 箒星ツアー'15
2015年5月9日(土)岡山県 MO:GLA
OPEN 17:30 / START 18:00
2015年5月10日(日)福岡県 Gate's 7
OPEN 17:30 / START 18:00
2015年5月12日(火)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
2015年5月15日(金)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
2015年5月16日(土)東京都 赤坂BLITZ
OPEN 17:00 / START 18:00
料金:3800円(全公演共通・ドリンク代別)
一般発売:2015年3月21日(土)
「箒星図鑑」CD購入者チケット先行受付:2015年3月4日(水)12:00~3月12日(木)18:00
「箒星図鑑」発売記念イベント
2015年3月4日(水)東京都 タワーレコード渋谷店 1F店内イベントスペース
START 19:30
2015年3月7日(土)東京都 タワーレコード秋葉原店 7F店内イベントスペース
START 14:00
2015年3月8日(日)埼玉県 タワ-レコ-ド浦和店 浦和PARCO 1F正面入口
START 14:00
2015年3月8日(日)埼玉県 HMV大宮アルシェ店 店内イベントスペース
START 18:00
2015年3月15日(日)愛知県 タワーレコード名古屋近鉄パッセ店 9Fイベントスペース
START 13:00
2015年3月15日(日)愛知県 HMV栄 イベントスペース
START 17:00
2015年3月28日(土)大阪府 タワ-レコ-ド難波店 5Fイベントスペ-ス
START 19:00
2015年4月5日(日)東京都 dues新宿
START 17:00
2015年4月5日(日)東京都 ヴィレッジヴァンガード下北沢店
START 21:00

※各イベントの詳細はこちらから

吉澤嘉代子(ヨシザワカヨコ)

吉澤嘉代子

1990年、埼玉県川口市生まれ。鋳物工場街で育ち、16歳から作詞作曲を始める。2010年11月にヤマハ主催のコンテスト「"The 4th Music Revolution" JAPAN FINAL」に出場し、グランプリとオーディエンス賞をダブル受賞。2013年6月にインディーズ1stミニアルバム「魔女図鑑」でCDデビューを果たす。同年11月には東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて初のワンマンライブ「吉澤嘉代子 ファーストワンマンショウ ~夢で逢えたってしょうがないでSHOW~」を開催。翌12月より「魔女、旅に出る。」と銘打ったライブハウスツアーで各地を回った。日本クラウン、ヤマハミュージックアーティスト、ヤマハミュージックパブリッシングの3社が合同で設立した新レーベル「e-stretch RECORDS」の第1弾アーティストとして、2014年5月にミニアルバム「変身少女」でメジャーデビュー。同年10月にメジャー第2弾ミニアルバム「幻倶楽部」を発表した。2015年3月に1stフルアルバム「箒星図鑑」をリリース。5月には5都市を回るライブツアー「吉澤嘉代子 箒星ツアー'15」を行う。